蛮族の本懐

Ne quid nimisというモットーに抗うための試み。

Trip to Hakodadi (5):追憶の三日目 前篇

前回のおさらい

rasiel9713.hatenablog.com

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函館朝市 恵比寿屋食堂

 2017年5月5日、函館三日目の朝も函館朝市から攻めていきます。この日は二日目の反省を活かして、自分の好きなネタだけが乗っている丼を食す!と心に決めてやってまいりました。三日目の朝食に選んだのは、どんぶり横丁市場・恵比寿屋食堂の「うにかに丼」(税別1,980円)です*1。それでは、出発です!

 この日のどんぶり横丁市場も大混雑。私は気の長い人間なので、長時間待機すること自体にイライラすることは殆どありません。しかし、この日はマナーの悪い日本人観光客のせいで早朝から立腹してしまいました。通路に面した活いかの水槽を日本人女性(男連れ)が何回も拳で叩いて、いかを脅かして楽しんでいたからです。トラブルを起こすために旅行しているわけではないので、面と向かって指摘することはしませんでしたが、沸々と怒りが湧き上がってきました。

 なお、この手の話題をすると必ず「それでも日本人か?」だの「実は日本人ではなかったのでは?」だの言ってくる人がいるので予め言っておきますが、私は「マナーを守りましょう」という無言の圧力から解放されたときの日本人こそ横柄な態度で逸脱行動に出がちであるという立場を取っています(主語のでかい発言)。これは「旅の恥はかき捨て」という心理にも通じているし、また知り合いが多い場所であっても、「マナーを守らなくてよい」というお墨付きを(仲間内で)得られた途端に暴力的になるという心理にも通じているのかな、と思います。日本人の一般的性質として論じるのが雑であることは重々承知の上ですが、私自身その傾向があることを否定できないので、自戒を込めて書き残しておきます。聖人君子だけが私に石を投げてください。

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 思わず、Rasiel怒りの連続ツイート。

 ※関連ツイート

  45分ほど店頭に並んで、ようやく着席。気を取り直して「うにかに丼」を注文し、さらに待つこと15分。とうとう「うにかに丼」とご対面です。こ、これは……旨すぎる。ボキャ貧で恐縮ですが、濃厚なウニと程よい塩気のカニが奏でるハーモニーにめった打ちにされた私は、うわごとのように「旨すぎる……」とつぶやくことしかできませんでした。……この文章を書いていると、また「うにかに丼」を食べたくなってきてつらいですね(セルフ飯テロ)。今度は札幌の魚市場か小樽の寿司店にでも行ってみようかしら?

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 ……極めて単純な頭をしている私なのでした。

アンジェリック ヴォヤージュ ~賞味期限は30分~ 

 恵比寿屋食堂の「うにかに丼」を堪能したところで、次の目的地は函館の人気パティスリー、アンジェリック ヴォヤージュです。函館市電函館駅前駅から5系統(函館どつく前行き)に乗り込み、大町駅で降車。弥生坂を上って左折し、弁天末広通を真っ直ぐ進むと、中華會館の向かいに感じのよい(sympathique)お店と長蛇の列(!)が見えてきました。この列はどこまで続いているのでしょう。

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 アンジェリック ヴォヤージュの開店は10時。開店15分前の時点で列は二軒隣の地所まで伸びていました(下掲ツイート参照)。 私の目当ては札幌のセラピストから勧められた「賞味期限30分のクレープ」だったのですが、並んでいる人々はどうやら1日100箱限定の「ショコラ・ヴォヤージュ」が目当ての様子。クレープ列とショコラ列を分けてくれないかなぁ……などと思いながら、牛歩の待機時間が開幕しました。店員が定期的に行列のところへ出てきては「本日はご来店いただき、ありがとうございます。ショコラ・ヴォヤージュは1日100箱限定となっております。売り切れの際は1ヶ月後の発送となりますのでご了承ください。クレープは充分な数をご用意しております」などと同じアナウンスを繰り返すので「それはもう聞いたよ、新しい情報はないのか?」と神経が逆撫でされます。

 少しずつお店の入り口へ向かって前進していくうちに、地方発送勢が店内で送り状を書いているのが牛歩の原因であると分かりました。正直なところ、地方発送勢には並んでいる最中に予め送り状を書いてもらえばスムーズなのに……と思ったのですが、そういうわけにはいかないのでしょうか。私の後ろに並んでいたカップルが「敢えて業務を効率化してないのかもね。人がたくさん並べばブランドや話題性が向上するし」などと話しているのを耳にしましたが、それが事実ならいい迷惑ですね……。単に田舎臭い運営であると思うことにしましょう。

 また、私の前に並んでいたカップルが喧嘩を始めたのは愉快でした。女が「もう並ぶの疲れた。もうよくない? 行こう」と言えば、男が「いや、お前が食べたいって言うから並んだんだろ。それなら初めから俺が行きたかったイカ刺しにすればよかったじゃん」と応答し、ああだこうだと口論に発展。この手の行列待機は友情や愛情が壊れるチャンスタイムなので傍から見ていて最高ですね。

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 ともあれ、並び始めてから2時間半、ようやく噂の「賞味期限30分のクレープ」チョコバナナミルフィーユ(税込650円)にありつけました。これだけは言っておきます。このもちもちクレープ、2時間半並ぶ価値はあります。外はもちもち、中はサクッと、程よい温度のチョコレートソースにとろけるバナナ。嗚呼、幸せとはこのことだ。レシートに印刷してあった「最幸の出愛に感謝!!」というイキリ文句も嫌いじゃないので、機会があれば是非再訪したいパティスリーです。

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函館中華會館

 なお、アンジェリック ヴォヤージュの道路向かいに建っているのが函館中華會館です。函館中華會館は1910年12月に竣工した函館華僑の集会所で、日本に唯一現存する釘を1本も使わない清朝の伝統工法に則った建造物です。現在は安全面への配慮から内部見学は中止されていますので、外観のみ写真に収めてきました。

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続・周遊 函館ベイエリア

 さて、もちもちクレープを堪能したところで、弥生坂を下って再びベイエリアへ。二日目の旅程で回りきれなかったスポットを巡回していきましょう。

旧函館西警察署庁舎(函館市臨海研究所)

 12時半頃、弥生坂を下って市電・大町駅まで戻ると、一本奥の通りの十字路にお洒落な建物が見えてきました。アンジェリック ヴォヤージュの2時間半の待機時間中、ずっとTwitterを見ていたせいでスマホのバッテリーが今にも切れそうな状態だったので、建物の詳細については後で調べることにして、建物の外観だけ撮影を済ませました。その後、一旦宿泊先(市電・中央病院前駅付近)まで戻り、スマホの充電を完了してから出直すことに。このまま現地でモバイルバッテリーで充電してもよかったのですが、この日の最大の目的は夕陽の名所を訪れることだったので、時間調整も兼ねて一旦帰投したというわけです。

 後日調べたところ、このお洒落な建物は旧函館西警察署庁舎であることを確認したため、本記事にも掲載することにしました。2007年からは水産・海洋関連事業の研究施設である函館市臨海研究所として再整備され、2015年8月時点で5つの企業が入所しているようです*2。ここでも金森赤レンガ倉庫などと同様に、歴史的建造物の再利用を通じて「函館らしさ」を結節点とした今昔の紐帯を維持する試みが窺われます。こうして世代から世代へと鎖のように函館の景観が受け継がれていくのは、一つの街づくりとして個人的に好感が持てます。

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旧函館郵便局舎(はこだて明治館)

 宿泊先で昼寝をして、スマホのバッテリーが満タンになったところで再び出発。16時過ぎにベイエリアへ戻ってきました。三日目夕方の散策は、金森赤レンガ倉庫に隣接する旧函館郵便局舎から始まります。

 北海道に郵便制度が発足したのは1872年。日本における郵便制度の創設が1871年であることに鑑みると、開拓地(=北海道)にもすみやかに郵便制度が敷かれたことが分かります。そして、北海道最初の郵便役所が開設された街こそ、本記事で話題にしている函館なのです。それでは、函館が北海道における郵便制度普及の拠点とされたのはどのような事情によるのでしょう。勿論、当時函館は北海道最大の(港湾)都市であったため、札幌ではなく函館が拠点に選ばれたのも納得できます。しかしそれでも、ここまで早く郵便役所の開設が実現した背景には「郵便制度の父」こと前島密の強い意向があったのかもしれません(森友学園加計学園問題からのインスピレーション)。前島は1858年に航海術を学ぶために箱館に赴き、翌年1859年には五稜郭の設計者としても知られる武田斐三郎「諸術調所」(北海道最初の学問所)に入所するという学問遍歴を辿った人物です。これは根拠のない想像に過ぎませんが、前島にとって函館は報恩の対象だったのかもしれないですね。丸投げで恐縮ですが、函館が拠点に選ばれた経緯については識者のコメントを待つことにします。

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 なお、現在の建物は1911年に完成したもので、郵便局舎の移転に伴って1962年に民間に払い下げられ、商社の事務所や倉庫として再利用された後、1983年にショッピングモール「はこだて明治館」として再整備されて今に至っています。赤レンガを覆うツタが時の流れを感じさせるこの建物には、ガラス製品・オルゴール・ワインといったお洒落なアイテムが揃っています。どうして私がそんなお洒落スポットに足を運んでいるのか?と疑問に思われた方もいるかもしれませんが、理由は簡単です。お土産にはこだてわいんを買うためです!*3

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ハセガワストア ベイエリア店

 「はこだて明治館」を後にして、この日も遅めの昼食を摂ることにしました。二食目は函館市民のソウルフードハセガワストア「やきとり弁当」です。実は「はこだて明治館」へ行く途中、やきとり弁当のうま辛味(税込445円)をハセガワストア ベイエリア店(二日目に行ったラッキーピエロ本店の隣)の店頭で注文し、出来上がりまで20~30分待つよう言われていたので、「はこだて明治館」から折り返すとちょうど出来たてにありつけました!

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 ポイントは「やきとり弁当」だけど豚肉ということです。

函館はじめ道南ではやきとりといったら「豚精肉」これは映画「居酒屋兆治」で高倉健さん演じるところの兆治さんが焼いていたのが豚精肉だったことからも「通」の間では常識!?ですが、北海道の道南エリアでは、一般的に「やきとり」というと豚肉のことを指します。
道南地区は養豚場も多く、鶏より豚が安価に手に入りやすかったことが、その一番の理由といえるかもしれまん。
また、自然の厳しい北海道の地で働く人たちには豚肉の栄養やスタミナ満点であることがエネルギー源として好まれたのではないでしょうか。
函館では「やきとり」を注文すると普通に「豚精肉」がでてきますし、それを町の人は普通のことと思っています。鶏のやきとりが欲しい時は「やきとり 鶏肉で」と注文するのが何の疑問もない普通のことなのです*4

 ハセガワストアは函館出身の4人組ロックバンド・GLAYがオススメしたことで全国区の知名度を得ました。ベイエリア店の壁面もGLAY関連の地元ネタが書かれた新聞記事で埋められており、GLAYファンと思われる方々の「聖地巡礼」も散見されました。函館はGLAY以外にも、北島三郎辻仁成YUKIなど多くのミュージシャンを輩出した街でもありますから、音楽ファンの方ならまた一味違った楽しみ方もできるのかもしれません。出来たてのジューシーなぶた……否「やきとり弁当」を堪能しながら、ぼんやりとそんなことを思いました。次の機会があれば、是非別の味も試してみたいところです。

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日本銀行函館支店(函館市北方民族資料館)

 「やきとり弁当」をぺろりと平らげた私は、腹ごなしに夕陽の名所・函館どつく方面に徒歩で向かうことにしました。北島三郎記念館(!)を通り過ぎ、市電・末広町駅の前を通り掛かった私の目に飛び込んできたのは「函館市北方民族資料館」の看板でした。立ち寄るべきか否か? 幾許かの逡巡の後、「次にいつ函館に来られるか分からない」という気持ちが勝り、当初の予定にはありませんでしたが資料館に立ち寄ることを決めました。大枠の予定を立てた上で、現地で予定を微調整するのもオツなものですよね。我々は生きているのですから!

 函館市北方民族資料館は、1926年に建てられた日本銀行函館支店(三代目店舗)の建物を再利用して運営されています。1988年の店舗移転に伴い、函館市文化施設として活用することになり、現在に至っています。アイヌの民族衣装や装身具、アリュートの皮舟など貴重な資料が多数残されていましたが、私はアイヌについて不勉強のため「見応えがあった」という視覚的な感想しか述べられず、情けない限りです。知里幸恵訳『アイヌ神謡集』(岩波文庫、1978年)萱野茂アイヌの昔話』(平凡社ライブラリー、1993年)瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書、2015年)などを読んで人並みの見識を身につけた後で、他のアイヌ関係の資料館と併せて再訪したい場所になりました。

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相馬株式会社

 基坂を挟んで函館市北方民族資料館の向かいに建つのが、函館で不動産賃貸業を営む相馬株式会社です。モスグリーンの外壁が印象的なこの建物は1916年に建てられ、現在も社屋として使用されています。相馬株式会社は初代・相馬哲平が1863年に弁天町に開業した「相馬商店」を前身としています。米穀商として出発した相馬はやがて函館の豪商といわれるまでに成長し、1907年8月の函館大火の後には旧函館区公会堂の再建費用として5万円の大金を寄附するほどの存在感を放つようになりました。函館の景観は「金森洋物店」の渡邉熊四郎といい、「相馬商店」の相馬哲平といい、豪商たちによって形成されたものでもあるのです。

 いよいよ、夕陽の名所へ向かいます。後篇に続きます。

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Appendix

 市電・中央病院前駅付近で遭遇した箱館ハイカラ號。風情ありますね。

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関連書籍

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

 
アイヌの昔話―ひとつぶのサッチポロ (平凡社ライブラリー)

アイヌの昔話―ひとつぶのサッチポロ (平凡社ライブラリー)

 
アイヌ学入門 (講談社現代新書)

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*1:本日も『ハコダテコモド』のクーポン券のおかげで5%引きで食べられました。両親をして「あなたは一人っ子なのに何故か昔からケチだった。こんな子に育てた覚えはないのに……」と言わしめた私の面目躍如(?)ですね。これは「節約志向」とはまた違うと思います。自分の趣味嗜好には考えなしにお金をつぎ込んでしまうので……(ダメ人間)。

*2:入居者は有限会社バイオクリエイト、株式会社環境シミュレーション研究所、宏輝株式会社、有限会社からだサポート研究所、株式会社エスピージーフコクの5企業です。詳細については、http://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2014031100224/をご覧ください。

*3:なお、札幌に戻った後、はこだてわいんに私の連絡先を添えて当時通っていたセラピストさんに渡したものの、普通に連絡は来ないのでそのお店には行けなくなったというのはまた別の話です……。笑ってください。

*4:http://www.hasesuto.co.jp/yakiben-banasi.htmlの「やきとり弁当いい話 その1」を参照。