蛮族の本懐

Ne quid nimisというモットーに抗うための試み。

胆振 珍道中(2):絵鞆半島ぐるり一周 ~室蘭八景めぐり~

前回のおさらい

 本連載を最初から読みたい方は以下のリンクからどうぞ。

rasiel9713.hatenablog.com

室蘭八景(東海岸編)

 前回の記事で「初日後篇へ続きます」と書きましたが、スマンありゃウソだった。初日午後のヴォリュームが意外に多かったため、初日の夜と二日目を後篇(第3章)へ先送りにして、今回は中篇(第2章)ということでお送りします。

 パラレル・ワールドでは“つまみぐい”に発展したかもしれぬイタンキ浜を後にして、13時過ぎに太平洋を一望できる地球岬(チキウ岬)へやってきました。前週の積丹・祝津・小樽ツアーでは荒天のせいで青い海を堪能することは叶いませんでしたが、この日は抜けるような青空に恵まれました。地球岬からの太平洋の眺望にも期待がかかります。

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 地球岬は1970年に選定された室蘭八景の一つです。今回の記事では室蘭の街が開かれた絵鞆えとも半島の海岸線沿いに散らばる室蘭八景を巡っていきます。まずは東海岸側から、地球岬・トッカリショ・金屏風の3つの景勝地をご紹介します。

地球岬の絶景

 一つ目の室蘭八景は、朝日新聞社がまとめた「北海道の自然100選」読売新聞社がまとめた「新日本観光地百選」にも選出された地球岬(チキウ岬)です。当然ながら「地球」は当て字で、語源となったアイヌ語の「ポロ・チケップ」(親である断崖)がチケウエ→チキウと転訛したとの事です。丸みを帯びた太平洋の水平線を展望台から見渡せることで有名なスポットで、その意味では「地球」の当て字は相応しいと思います。

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 展望台への登り坂を歩いていくと、太平洋に突き出した海抜120mの断崖絶壁が見えてきます。断崖絶壁に立つ白い建物はチキウ岬灯台で、1920年の点灯以来自動化などを経ながらも、なお現役で稼働を続けています。

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 太平洋に背を向けると、絵鞆半島の海岸線沿いに断崖絶壁が続いていることが分かります。順次紹介していく室蘭八景のキーワードとして「断崖絶壁」は押さえておきましょう。

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 海抜約150mの展望台から望む太平洋。「積丹よりこっちの方がイイよね」と話している年配の女性二人組がいましたが、確かに視界を遮るものがない地球岬の眺望の方が壮大に感じられるのかもしれません。ただ私が思うに、積丹神威岬や島武意海岸は絶景ポイントへ到達するまでに一苦労なのに対して、地球岬は駐車場から徒歩5分以内に展望台へ上がることができますから、体力的にしんどくないということも高評価の背景に潜んでいる可能性があります。それにしても、360°カメラ映えしそうな水平線ですこと!

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 積丹ブルーと太平洋の大パノラマ、どっちがタイプよ? 是非皆さんの目で見比べていただきたいと思います。

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トッカリショの奇勝

 二つ目の室蘭八景はトッカリショです。語源はアイヌ語の「トカル・イショ」(アザラシの岩)で、漁場としても使われてきた浜との事です。浜は立入禁止のため、海抜80m~100mほどの高台から眺めるのが精一杯です。

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 トッカリショは一面を覆うクマザサの緑色や太平洋の青色と、断崖の灰色が織り成すコントラストが美しい景勝地です。断崖の形状では積丹の奇岩にも負けず劣らず。気ままなオートバイの旅を彩る素敵な思い出のワンシーンです。

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金屏風の断崖絶壁

 三つ目の室蘭八景は金屏風です。本来は金屏風・銀屏風のペアで八景の一角を構成するのですが、銀屏風は測量山観光道路の展望台からだと見ることが難しく、むろらんクルージングの地球岬遊覧航路で外海から見る必要があるため、今回の記事では除外しました。金屏風は地球岬とトッカリショの間に位置するため、地球岬から太平洋を一望した後にトッカリショへ向かえば、すぐにヴューポイントを見つけることができます。

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 金屏風も海上から見ないと屏風のようには見えないとの事。次に室蘭へ行く機会があれば、晴れた昼間のクルージングに是非参加したいと思います。

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ちょっと寄り道 ~チャラツナイ展望台~

 金屏風を後にして、この日のホテルが位置する室蘭駅前へ向かうべく道道919号線を走っていると、左側にチャラツナイ展望台の駐車スペースを発見。思わず寄り道してしまいました。なお、チャラツナイの語源はアイヌ語の「チャラルセ・ナイ」(滝をなしてサラサラと流れる小川)との事です。

 図らずも逆光となってしまいましたが、奇岩の数々を捉えることができました。奇岩を近くで撮影するには、展望台の脇から未整備の断崖絶壁を降りていかなければならないため、途中まで行って引き返しました。

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 海上の岩の中で最も大きな円錐形の岩が「ムカル・イソ」(マサカリ岩)です。案内看板には、この岩にまつわる伝説が書かれています。

天地創造に際しコタンカラカムイ(天地創造の神)はクワとマサカリと石づちを使った。すべてが終わった後これらの道具を捨てて天に帰った。この道具は腐るにつれて魔神や悪い水になったが、マサカリだけは重いため魔神にもなりきれず、そのまま岩になってしまった。

 アイヌの伝説では乙女が岩になったり(神威岩)、マサカリが岩になったり(ムカル・イソ)と様々なヴァリエーションがあるようで興味深いです。

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室蘭駅舎 新旧対照

 さて、14時過ぎにようやく室蘭本線終着駅室蘭駅に到着しました。室蘭本線は元々、幌内炭坑の石炭を積出港のある室蘭まで輸送するために岩見沢室蘭間に敷設された路線です(当初の名称は北海道炭礦鉄道)。1892年に岩見沢輪西間に鉄道が開通し、1894年に室蘭港が特別輸出港となった後、1897年に輪西室蘭間に鉄道が完成して今に至っています。さらに、1909年には北海道炭鉱汽船輪西製鉄場(現・新日鐵住金室蘭製鐵所)が設立され、室蘭鉄の街として歩みを進めていきます。室蘭駅はそんな室蘭の栄枯盛衰を見守り続けてきました。

 室蘭駅前に赴くと、モニュメント「クジラたちの祝福」がお出迎え。良くも悪くも、人通りと活気のない駅前です。観光客の姿も全く見当たりません。

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 現行の室蘭駅舎(1997年建造)。TVゲーム初期のポリゴンを思わせるデザインで、正面のミラーが青空を映し出して綺麗です。駅舎の中では3~4人の若者が電車が来るのを待っていました。なんともこじんまりとした終着駅です。

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 現行の駅舎から1.1km離れた場所に位置するのが旧室蘭駅舎で、北海道の駅舎の中で最古の現存する木造建築物です(1912年建造)。札幌市時計台と同様の寄棟造りで、明治建築の屋根や白壁造りの外観を保存した全国的にも貴重な建物となっています。1997年の駅舎新築・移転に伴ってその役目を終え、現在は観光案内所として利用されています(1999年8月13日登録有形文化財に登録)。

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 ふと足元を見ると、室蘭市マスコットキャラクター「くじらん」がいました。どうしてサッカーボールを噴き上げているのかは分かりません……。

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 室蘭という街の総括は後篇(第3章)で行いたいと思います。

室蘭八景(西海岸編)

 15時にホテルにチェックインを果たし、着替えなどの荷物を個室に置きました。気を取り直して室蘭八景を巡る旅を再開しましょう。今度は西海岸側にある測量山・マスイチ浜・絵鞆岬・大黒島の4つの景勝地をご紹介します。

測量山の展望

 四つ目の室蘭八景は測量山(Survey Mountain)です。標高199.6mの測量山室蘭市街を一望できるスポットとして知られています。山頂にあるテレビ塔は毎日ライトアップされていますが、このライトアップは一般の寄附によって成り立っているというのですから驚きです。1988年11月26日以来、測量山ライトアップは1日も欠かすことなく続いており、今では連続点灯1万日を突破しています(2017年11月18日現在、10583日連続点灯)。

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 展望台へ上る階段は急勾配。運動不足の人間には結構堪えます。

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 登りきった!と思いきや、まだ階段が続いています。あと少しの辛抱です。

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 展望台からの眺望。1931年6月に与謝野鉄幹・晶子夫妻がこの地を訪れた際、霧深き山頂で以下の二首を詠みました。

  我立てる 即涼山の頂の 草のみ青き 霧の上かな       鉄幹

  灯台の 霧笛ひびきし 淋しけれ 即涼山の 木の下の路    晶子

 今日の測量山からは木々に加えて、二つの工場群を見ることができます。一つは白鳥大橋を渡った向こう岸に広がるJXTGエネルギー室蘭製造所(1956年操業開始)です。この施設については後篇(第3章)で詳述します。

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 もう一つは新日鐵住金室蘭製鐵所(1909年設立)です。新日鐵住金といえば、徴用工問題を巡って韓国の地裁で敗訴したことが記憶に新しいですが、この製鐵所でも朝鮮人を強制徴用していたのでしょうか。日本の近代化を象徴する巨大工場を眺めながら、当時の被害者が声を上げることを国家間合意に反する「蒸し返し」として抑え込もうとする論調や空気感と対峙する決意を新たにしました。

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マスイチ浜の外海展望

 五つ目の室蘭八景はマスイチ浜です。語源はアイヌ語の「マスイ・チセ」(ウミネコの家)。マスイチ浜までは測量山観光道路の隘路を通行しなければなりません。測量山観光道路は急カーヴも連続するため、車体の大きな自動車では行き交うのにも一苦労です。こんな時ほどSEROWに乗っていて良かったと思う時はありません。足場の悪い峠の隘路とSEROWの相性は抜群です。逆時計回りに測量山観光道路を通ってくると比較的楽かもしれませんが、室蘭八景の中で一番到達が難しいスポットであることは疑いありません。どうぞ足元にはご注意下さい。

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 マスイチ浜は古来からの地形がそのまま残された景勝地です。トッカリショや金屏風・銀屏風と比べるとやや地味かもしれませんが、海岸線沿いに続いていく断崖絶壁を一望できる独特の魅力を備えています。また、画面奥のフック状になっているのは追直漁港から人工島「Mランド」までの橋梁です。

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 なお、「Mランド」は養殖・蓄養等の多目的支援基地として利用されています。

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絵鞆岬、黒百合咲く大黒島

 続いて、六つ目と七つ目の室蘭八景を同時にご紹介します。絵鞆半島最西端の岬である絵鞆岬と、室蘭港の入口に浮かぶ大黒島です。

 絵鞆岬の語源はアイヌ語の「エンルム」(岬)です。有珠山昭和新山羊蹄山、函館方面を見渡せる展望台が附設されています。

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 絵鞆岬の展望台からは大黒島も眺望できます。「大黒島」の名は1838~1844年まで場所請負人を務めた岡田半兵衛という人物が安全祈願のため島内に大黒天を祀ったことに由来しますが、この島は「オルソン島とも呼ばれています。何となれば、1796年に英国船プロビデンス号が寄港した際、デンマーク人水兵のハンス・オルソンという人物が事故死し、彼をこの地に埋葬したためです。外国船来航の陰にはこんな人間ドラマもあったのだと思わされるエピソードで、少しだけセンチメンタルになりますね。

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 さて、もう一つ室蘭八景が残っていることにお気付きでしょうか。最後の室蘭八景は室蘭港の夜景なので、後篇(第3章)でまとめて取り扱います。

Appendix

 大黒島まで眺めた後、汗を流すためにむろらん温泉ゆららに立ち寄りました。ひとっ風呂浴びて休憩所へ向かう途中、ゲームコーナーで非常に懐かしい筐体を発見しました。皆さんはこの筐体をご存知ですか? それにしても、室蘭は20年近く時が止まっているのでしょうか……。

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