前回のおさらい
本連載を最初から読みたい方は以下のリンクからどうぞ。
rasiel9713.hatenablog.com
今回はいわき市指定史跡の住吉磨崖仏 (製作年代不明)を紹介するが、その前に、本連載のタイトルの「夕映え」に込めた思いについて書き残しておこう。
タイトルの「夕映え」について
「夕映えの山本寛」というタイトルは、直接的には石川健治の講演「夕映えの上杉愼吉」 (2014年10月30日、東京大学本郷キャンパスで開催)に由来している。
togetter.com
しかし、当然ながら私とて、石川健治の講演のことを四六時中頭に浮かべて過ごしてきたわけではない。「夕映えの上杉愼吉」から「夕映えの山本寛」を思いつくまでには飛躍がある。この飛躍の飛び石となったのは、『薄暮』の特報第二弾(ティザームービー)であった。この特報に登場した「福島の夕映えの中で出会う、少年と、少女。」 という一節に触発されて、私は殆ど反射的に「夕映えの上杉愼吉」のことを思い出したのだった。それほどまでに「夕映え」という単語は、私の中で上杉愼吉(1878-1929)と強く結びついていた(普段あまり使う機会のない単語だからだろうか)。
VIDEO youtu.be
前掲のTogetterにも記載の通り、石川健治によれば、「夕映えの上杉愼吉」というタイトルは、上杉が下宿していたゲオルク・イェリネック(Georg Jellinek, 1851-1911)のアパート屋根裏部屋から見えたであろう空模様と、美濃部達吉(1873-1948)との論争に実質的に敗れて落ち目となった上杉の晩年をかけたものであり、上杉を再評価する意味も込めて「黄昏」とはしなかったとのことである*1 。私も「夕映えの山本寛」というタイトルに同様の意味を込めている。山本が福島のロケハンで見たであろう空模様と、『Wake Up, Girls!』という作品を奪われた挙句、債権者破産を経て廃業を宣言するに至った山本の末路をかけて、山本を改めて評価する意味を込めた次第である。
なお、『薄暮』を制作したトワイライトスタジオ の社名は、「薄暮」の英訳であるtwilight から取られたものであるが、これは「夕映え」=sunset よりも少し遅い時間帯を指す言葉である。「薄暮の前に」というフレーズにおいては、「夕映え」と「薄暮」の時間的先後関係が示されるとともに、本連載が『薄暮』劇場公開前の旅行記であることも含意されている。この点については、Yamakan im Abendrot, vor der Abenddämmerung とドイツ語で書けば、表現上も綺麗な対比になるのだが、英語や日本語ではいまいち伝わらないのが残念な限りである(語法の誤りがあればご指摘ください)。
さて、そろそろ本題、住吉磨崖仏の話を始めることにしよう。
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