蛮族の本懐

Ne quid nimisというモットーに抗うための試み。

【いわき紀行】夕映えの山本寛 薄暮の前に(1):小名浜と震災~いわき・ら・ら・ミュウ~

はじめに

 山本寛の新作アニメ映画『薄暮』が当たっている。『薄暮』は『blossom』、『Wake Up, Girls!』に続く「東北三部作」の最終章であり、東日本大震災後の福島県いわき市を舞台に、静かに展開するボーイ・ミーツ・ガールものである。一時は完成が危ぶまれたものの、最終的には上映開始を遅らせながらも、短編アニメーションとして違和感のない出来に仕上がった。山本寛の現時点での「遺作」(あるいは「遺言」?)となった『薄暮』は、アニメ人・山本寛の足跡を辿る旅と言うべき作品だ。日本国内で(少しずつではあるが)上映館を増やし、カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭のアニメーション部門、今敏賞にノミネートされるなど、多くの人々の目に触れる機会が増えつつあるのは喜ばしい。

 ただ、最初にお断りしておくと、本エントリは『薄暮』の劇評ではなく、『薄暮』にかこつけて1年前のいわき紀行文を書き連ねるものである(『薄暮』の劇評は別稿に譲る)。また、本エントリは『薄暮』の舞台探訪記事でもなく、ナンバユウキの言う「非公式の質感旅行」(下記参照)の記録に近い。小山佐智(CV: 桜田ひより)と雉子波祐介(CV: 加藤清史郎)が『薄暮』の劇中で同じ時間を過ごした場所の周辺に、どのような街並みや賑わいが広がっているのか、いくつかのスポットを紹介しながら描き出していこう。舞台探訪目的であるかを問わず、これからいわきに行く人の参考になれば幸甚である。

lichtung.hateblo.jp

 なお、すぐ後で書くように、私といわきを結びつけたのは他でもないWake Up, Girls! の7人だった。声優ユニットとしてのWake Up, Girls!、いわき、そして『薄暮』。山本寛も、「声優の矛」としての彼女たちも、実は「同じ夢を見て」いたのかもしれない。

いわき行の端緒

 2018年3月16日(金)から3月17日(土)にかけて、AEONプレゼンツ がんばっぺ福島!Wake Up, Girls! チャリティ・ミニコンサートに参加するため、TOURING SEROWでいわきに行ってきた。ただ厳密に言えば、いわきは目的地ではなく中継地点だった。何となれば、私にとっての本命は2018年3月18日(日)に宮城県・石巻で開催された、わぐらぶ限定 TUNAGO東北ろっけんソロイベントツアー(永野愛理ソロ公演)だったからである。東京→いわき→石巻とオートバイで北上し、仙台の実家にも立ち寄るという春休みの長距離ツーリングが、こうして始まった。

 2018年3月16日(金)、朝から小雨が降りしきる中、私は東京を出発した。常磐道を北上していわきに前泊するというスケジュールだ。この日の空模様は、北から雨雲が南下してくるパターンで、残念ながら風雨から逃げられない。冬季ツーリングのお供であるワークマンの「イージス」を着ているとはいえ、3月の雨天高速走行はとにかく凍える。暖を取るため、北茨城市といわき市の境に位置する関本PAで一休みしていると、トイレ附近で「国道6号富岡町以北 自動二輪車は通行できません」という看板を見つけた。

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 言うまでもなく、「国道6号富岡町以北」というのは福島第一原発事故による帰還困難区域を指している。『薄暮』の雉子波祐介がそこから避難してきた場所だ。身体が露出することになる自動二輪車では通れないのである。『薄暮』の劇中でも、小山佐智の実家のワンシーンで、テレビの天気予報で各地の放射線量が流れる様子が描かれている。上記の看板は私に、これから足を踏み入れる地域は、日常の中に原子力の脅威が入り込んでしまった地域なのだという緊張感を改めて生じさせた。f:id:rasiel9713:20180316104509j:plain

 宮城県仙台市を舞台にした『Wake Up, Girls!』では、震災における最大の脅威として描かれたのは津波だった。それは、Wake Up, Girls! の声優ユニット活動を通じて提示された映像や演者の語りからも明らかであろう。宮城県の人々にとって、震災からの復興とは何よりも津波からの復興を意味していた。何となれば、宮城県沿岸部にも女川原発という原子力発電所があるが、福島第一原発のような顛末を迎えることはなかったからである。これを不幸中の幸いと評してよいのか、私には分からない。

 いわきを含む福島県浜通りの人々と宮城県の人々は際立って異なる震災観を持っている。「震災」の比重が原発事故に置かれるか、津波の被害に置かれるかという違いだ。この震災感の違いは再生産されることが予想され、「東日本大震災」の一言で括ることの難しさ(踏み込んで言えば、不適切さ)を噛みしめざるを得ない。その意味でも、『薄暮』は『Wake Up, Girls!』を補完する作品として観られなければならない。

いわき・ら・ら・ミュウ~カモメか、ウミネコか、それが問題だ~

 出発から4時間ほどかかって、いわき市観光物産センターのいわき・ら・ら・ミュウに到着。生憎の天候で凍えた上、急ブレーキでオートバイの後輪が滑って命の危険を感じたこともあって*1、実家に電話をかけて愚痴る程度には機嫌が悪くなっていた。バイク乗りにとって最大の敵は己自身。苛ついた状態で走り続けるのは事故の元なので、頭を冷やすためにいわき・ら・ら・ミュウに立ち寄ることにした。

 カモメ(いわき市の鳥)のマークがお出迎え。

Q2.
『いわき・ら・ら・ミュウ』の、名前の由来はなんですか?


A2.
キラキラと光輝く「いわき」の青い海、その軽やかでさわやかな「いわき」をイメージした”いわき・ら・ら”と、市の鳥「かもめ」の愛称を合わせたものです。 (市制30周年記念式典で、市の鳥 かもめ、および愛称ミュウが決定しております) 公募により、4,763件の中から決まりました。

http://www.lalamew.jp/faq/

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 まずはエネルギー補給。いわき・ら・ら・ミュウ2階のレストランふぇにっくすカジキフライ膳を注文。いわき新名物のカジキメンチカジキカツを同時に楽しめる。サクッと揚がったカジキは淡白で美味しい。小名浜港で太平洋を眺めながらのランチは、天候が良ければ言うことなしの絶景だったことだろう。

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 満腹になったところで、館内を散策。2階のライブいわきミュウじあむで、福島ガイナ(旧福島ガイナックス)が手がける、いわき市小名浜振興アニメ『人力戦艦!?汐風澤風』が紹介されていた。戦艦というものに対する反省的な描写はなく、『ガールズ&パンツァー』同様、地域振興アニメとして険しい部分はあるのだが、みんな大好き千本木彩花も出演しているので、時間のある方はご覧いただきたい*2

fukushimagaina.com

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 2階テラス脇のら・ら・スタジオ。ラジオの生放送中だった。

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 館内を散策しているうちに雨が弱まったので、テラスから小名浜港を望む。対岸に見える巨大なビニールハウスのような建物は、環境水族館のアクアマリンふくしまだ。

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 1階に降りてオーシャンビューを満喫……と言いたいところだが、鼠色の空模様。

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 等間隔にカモメ(ウミネコ?)が並んでいる。いわき・ら・ら・ミュウのカモメ(ウミネコ?)は人に慣れているのか、近づいても逃げない。女子大生風の2人がカモメ(ウミネコ?)をフレームに入れて自撮りをしていたほどである*3

 なお、東日本大震災の際には、当然ながらいわき市の沿岸部も津波の被害を受けた。下の写真2枚目をご覧いただきたい。奥に写っているのは津波の爪痕である。

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 次に来る機会があれば、1階で特産品を買って帰りたい。願わくば晴れんことを。

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 次回は少々マニアックなスポット、住吉磨崖仏を紹介する。

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togetter.com

*1:高齢者マークの自動車に急発進で追突されるのも嫌だが、前方車の急ブレーキのせいで追突するのも嫌だ。雨天の日はいつも以上に車間距離を取る必要があることを再確認した。

*2:なお、上坂すみれに「わたしと合体して♡」と何かのパクリのようなセリフを言わせたいだけで、内容的にそれほど面白いアニメではないので、コンテンツとしては完全にガルパンに軍配が上がる。ご当地ヒーローショーを見るような気持ちで視聴することをオススメする(失礼な発言)。

*3:もしこの鳥がウミネコだったら、某ギャングから「ありゃカモメじゃあねえーぜ、ウミネコだ」と言われそうだ。くちばしの上下両方に赤い色が付いているのがウミネコの特徴らしいので、手前からウミネコ、カモメ、ウミネコ、カモメと交互に並んでいるということになるのだろうか。私ではうまく見分けられないので、バードウォッチングマニアにご意見いただきたい。ところで、いわき・ら・ら・ミュウのカモメマークはくちばし全体が赤く塗ってあるが、本当にカモメなのだろうか?