前回のおさらい
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2018年3月17日(土)、いわき2日目の朝が来た。前日の曇天とは打って変わって、晴天が広がっていた。この日はAEONプレゼンツ がんばっぺ福島!Wake Up, Girls! チャリティ・ミニコンサートというメインイベントが控えているため、体力温存のためにコンサート前の観光は程々にしておこうと思っていたのだが、抜けるような青空を目にして、すぐに気が変わった。前日のフラストレーションもバネとなり、私は可能な限りいわきを満喫する方針へと切り替えたのであった。
今回は美空ひばりの「みだれ髪」の舞台となり、現在も「ひばり灯台」の名で親しまれる塩屋埼灯台(日本の灯台50選の1つ)を紹介する。また、いわきマリンタワーについても併せて紹介する。文字通り、いわきの二大巨塔を取り扱うというわけである。
塩屋埼灯台 ~憎や 恋しや 塩屋の岬~
塩屋埼灯台(1899年初点灯)はいわき・薄磯海岸、海抜73mの断崖に立つ白亜の灯台であり、後述するように歌・詩・映画などのモチーフとして長年親しまれてきた。公益社団法人燈光会の「日本の灯台50選」の1つにも選ばれており、知名度は高い。
ただ、JRいわき駅からバスで30分、最寄りのバス停から徒歩15分と、微妙に交通は不便で、レンタカーやマイカーなどの足がないと立ち寄りにくい場所なのは否めない。
時刻は朝の8時半、薄磯海岸の美しい白浜から青空と太平洋を望む。
薄磯海水浴場は東日本大震災前には夏の間に約26万人が訪れたという福島県内最大の海水浴場だ。震災後しばらく海開きが中止されていたが、2017年7月15日、7年ぶりに海開きが行われて現在に至っている*1。防波堤などの安全対策を整えた上で、「汚染水による影響は完全にブロックされている」から入水しても問題はないという判断なのかもしれないが、大腸菌レベルが基準値を大幅に上回る東京湾で「肥溜めトライアスロン」をやらされることに比べれば、汚染水の影響など霞んで見えるような心地がしてしまう*2。
ともあれ、薄磯海岸沿い(福島県道382号線)を塩屋崎灯台に向かって走っていると、灯台を背景に立つ「永遠のひばり像」が見えてくる。「永遠のひばり像」は、塩屋埼灯台が美空ひばりの「みだれ髪」の舞台となったことに因んで、2002年5月25日にいわき市民と美空ひばりファンにより建立されたモニュメントだ。
「みだれ髪」の作詞家・星野哲郎は、夜の海を照らし続ける塩屋埼灯台と孤高に歌い続ける美空ひばりを重ね合わせて、次のように語っている。
あれはまさにひばりさんだなと、あの灯台が。遠く離れると小さく見えるんですよ、近くだととても大きな灯台だけど、それが光をね、誰も見ていない海に向かってね、ゴーッゴーッと照らし始めた時に、これとひばりさんとのご縁のある人達、弟さんだとかお父さんお母さん、これが結びつくなと思ったんですよ。寂しいけど歌わなきゃいけない、しかも広い広い海に向かって、歌ってる、これがひばりさんの姿なんだなと、これを歌えばいいなと思って……。
3番最後の歌詞「ひとりぼっちに しないでおくれ」まで、流れるように連れて行かれる。安い言葉になってしまうが、溢れるペーソスが黄昏の心地を誘う。
薄磯海岸から岬にそびえる塩屋埼灯台を望む。海面から灯火までは73m。
「ひばり街道」の案内板に書かれている通り、この地点は海抜5m。当然ながら、塩屋埼灯台の周辺地区も東日本大震災の津波被害を受けた。「ひばり街道」のアスファルトが比較的新しく見えるのは、震災後に再舗装されたからだろうか。
塩屋埼灯台の麓には「喜びも悲しみも幾歳月」の歌碑が設置されている。私は昭和の歌謡曲や映画・ドラマには疎いが、こうして写真付きで振り返ってみると、塩屋埼灯台が「聖地巡礼」にはもってこいの観光スポットであることがよく分かる。
(2020年4月19日追記:「喜びも悲しみも幾歳月」は1957年に松竹が制作・公開した同名の映画作品(監督:木下惠介)の主題歌である。1956年に雑誌掲載された田中きよ(塩屋埼灯台長・田中績の妻)の手記「海を守る夫と共に20年」に感銘を受けた木下監督自身が脚本を担当し、灯台守夫婦の人生を活写した。同作品はその後テレビドラマ化、リメイクもなされるほど、ロードムービーとして大ヒットを記録した。)
岬の頂上までは階段で登ることになるが、運動不足の身にはなかなか堪える。
ようやく岬の頂上、塩屋埼灯台の入口に到着。この白亜の灯台は、沖合40kmの海上まで44万カンデラの光を放つ現役の灯台である。東日本大震災で被災し、一時消灯したものの、約9ヶ月後に点灯復旧。2017年2月には一般公開が再開されて今日に至っている。
入場料金を支払い、103段の螺旋階段を踏破すると、塩屋埼灯台の上層から海岸線を一望することができる。なお、以下、一枚目の写真が北方向、二枚目の写真が南方向だ。
灯台の職員の話によると、震災前は灯台の周辺に多くの民宿が並んでいたが、震災の被害で軒並み営業をやめてしまったとのこと。一般公開が再開されても、全ての日常が元通りになるわけではない。「原状回復」という用語の虚しさを強く感じた探訪だった。
いわきマリンタワー ~360度のスカイパノラマ~
塩屋埼灯台を後にして、次の目的地であるいわきマリンタワーへ向かう。
9時半頃、いわきマリンタワーに到着。いわきマリンタワー(1985年完成)は塩屋埼灯台の南西方向、小名浜港に面した三崎公園に立つ展望塔で、塔屋の高さは地上から59.99m(海抜106m)。360度のスカイパノラマを楽しめるいわきのシンボルだ。
いわきマリンタワーは、福島ガイナ(旧福島ガイナックス)が手がける、いわき市小名浜振興アニメ『人力戦艦!?汐風澤風』第2話のラストシーンにも登場している。
最上階の展望室まではエレベータで一気に登れる。階段で上ることも可能だが、体力に自身のある方向けだろう。上りはエレベータ、下りは階段という行程をオススメする。
展望台から小名浜港を望みながら、復興への道のりに思いを馳せた。
あまりに天気がいいので、1日目のリベンジを果たすべく、いわき・ら・ら・ミュウを早速再訪してみた。対岸に見える透明な建物は環境水族館ことアクアマリンふくしまだ。今回は時間がなかったのでパスしたが、三度目の正直なるか。
やはり晴天はいい。海面を漂う海鳥の群れを見ながら、心安らかにそう思った。
次回は国宝・白水阿弥陀堂を紹介する。なるべく間を空けずに更新したい。
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*1:https://www.youtube.com/watch?v=rR6jxq6MXLEを参照。
*2:「肥溜めトライアスロン」については、https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/260318を参照。※2020年4月18日補足:なお、この箇所は2020年東京オリンピック延期の決定前に下書きしたため、時宜にかなわない記載となってしまったが、延期によって大腸菌レベルが改善されるのかは定かでないため、そのまま残すことにした。