蛮族の本懐

Ne quid nimisというモットーに抗うための試み。

【いわき紀行】夕映えの山本寛 薄暮の前に(4):国宝と近代化産業遺産~白水阿弥陀堂と内郷山神社相撲場跡~

前回のおさらい

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 太平洋沿岸の二大巨塔(塩屋埼灯台といわきマリンタワー)を後にした私は、内陸部の内郷エリアへ移動。メインイベントであるAEONプレゼンツ がんばっぺ福島!Wake Up, Girls! チャリティ・ミニコンサートは15時開場のため、あまり慌ただしくならないよう、午前中には観光を一通り終えたいと考えた。

 今回は福島県内唯一の国宝建造物である白水阿弥陀堂を紹介する。また、白水阿弥陀堂境域に隣接する常磐神社、内郷駅近くの内郷山神社相撲場跡も併せて紹介する。

国宝 白水阿弥陀堂 ~奥州平泉と岩城のつながり~

 白水阿弥陀堂は、永暦元(1160)年に岩城国守・岩城則道夫人の徳姫が発願・建立した御堂で、福島県内唯一の国宝建造物に指定されている(2020年4月19日現在)。

 徳姫の出自については諸説あり、白水阿弥陀堂の拝観券には藤原清衡(奥州藤原氏初代)の娘と記載されているが、基衡(清衡の子)の娘、清衡の養女、基衡の養女など見解が分かれており、確定を見ていないようだ*1。いずれにせよ、徳姫は夫の歿後、亡き夫の冥福を祈るため、阿弥陀堂を建立、浄土庭園を造立したと伝えられている。

 2018年3月17日(土)10時半過ぎ、いわき市はうららかな日和。白水阿弥陀堂境域では白梅の花が咲いていた。駐車場にTOURING SEROWを停めて、御堂へ向かう。

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 浄土庭園に架かる橋の向こう側、正面奥に見えるのが白水阿弥陀堂だ。

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 この浄土庭園は経塚きょうづか山を主として山々に取り囲まれているのが特徴で、山々を蓮の花にたとえて作庭されたという。現在の庭園は1972年から発掘確認調査等に基づき復元されたものである(白水阿弥陀堂境域の史跡指定自体は1966年9月12日)。

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 拝観料を支払って、白水阿弥陀堂へ近づいていく。

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 この御堂は方三間ほうさんま単層宝形造ほうぎょうづくり杮葺こけらぶきという建築様式で、中尊寺金色堂(天治元(1124)年建立)と同様である(ただし、中尊寺金色堂は杮葺ではなく木瓦葺)*2。なお、白水の地名は、徳姫の故郷である奥州平泉の「泉」を分字して名付けられたものと伝えられている。仮に前記様式が平泉から持ち込まれたものだとすれば、文化史・建築史的にはなかなか面白そうなテーマである*3

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 機会があれば、次は季節を改めて、紅葉の時期に訪れてみたい。

常磐神社 ~神仏分離の影響で移転した村社~

 白水阿弥陀堂を保有する願成寺の本坊へ向かう道中、白水阿弥陀堂境域に隣接する丘陵の上に建っているのが常磐神社だ。

 常磐神社は白水阿弥陀堂を建立した徳姫を祀るために建てられた神社で、鉄製の懸仏かけぼとけを所蔵している(1968年12月27日いわき市有形文化財指定)。もともとは阿弥陀堂境内にあったが、明治新政府の神仏分離方針を受けて、現在の場所に移転された。現在の本殿は1987年に修復されたものである。

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 石段を上っていくと、ひっそりと所在する本殿を見られる。本殿に向かって差し込む光が不思議と神々しい印象を与えるのは、日照デザインの勝利だろうか。

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 鳳凰、獅子(あるいは狛犬?)、龍の意匠がかわいらしい。秋には境内が銀杏の絨毯で敷き詰められるらしい。白水阿弥陀堂と併せて、秋に再訪したいものだ。

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 なお、常磐神社の鳥居を横目に奥へ進むと、願成寺本坊に辿り着く。道中には紅白梅の花が咲き誇り、春の訪れを感じさせた。この地で桜が開花するまではもう少し待たなければなるまい。

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内郷山神社相撲場跡 ~住宅街に近代化産業遺産~

 時間に余裕がある方は、白水阿弥陀堂拝観のついでに、白水の住宅街の中に残る内郷山神社相撲場跡に足を運ぶのはいかがだろうか。ただ、初めてだと場所が分かりにくく、道路も狭いため、自動車で近くまで乗り入れるのはオススメしない。

 内郷山神社相撲場跡は、経済産業省が認定する近代化産業遺産に含まれる「常盤炭田関連遺産」の構成遺産の一つである*4。1951年、神事と炭鉱夫の余興を兼ねて相撲が開催されるようになり、屋根付きの土俵が神社の境内に設けられた。

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 屋根は残っていないが、石段状の観客席が現存しており、小さな円形闘技場ながら意外に見応えがある。観客席に腰を下ろし、かつての激闘に思いを馳せてみてはいかがだろうか。なお、神社も既に廃社となっており、閑静な住宅街の中にひっそりと眠っているような跡地なので、住民への配慮は忘れないように。

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 次回は山本寛監督作品『薄暮』の劇評を交えつつ、「非公式の質感旅行」の顛末を記して、本連載を締めくくることとしたい。

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Appendix:麺屋龍次

 12時過ぎにコンサート会場のいわき芸術文化交流館アリオスまで戻ってきた。アリオス向かいのいわき市役所駐車場が無料で利用できたので、オートバイを駐輪して街中へ。

 この日の昼食は、会場近くの麺屋龍次で龍次麺(850円)を注文。豚骨:魚介=7:3のスープは見た目よりあっさり。厚切りの豚バラチャーシュー、とろける玉子、コチュジャンがバランス抜群で旨い。破壊力に溢れた一杯だった。なお、店員が「りゅうづめん」と発音していたのも印象に残った。

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*1:確かに、徳姫を清衡の実の娘と想定した場合、清衡が大治3(1128)年に72歳で亡くなったことに鑑みると、清衡死去の32年後に御堂建立の意思を表明できる女性はいったい清衡が何歳の時に生まれた子なのかは悩ましい問題である。

*2:さしあたり、https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/53/pdf/I-17.pdfを参照。

*3:無論、この時期に当該様式が一般的に普及していた可能性はある。方三間堂の普及の推移については未調査。

*4:平成19年度「近代化産業遺産群」(PDF注意)、39-41頁(10. 京浜工業地帯の重工業化と地域の経済発展を支えた常磐地域の鉱工業の歩みを物語る近代化産業遺産群)を参照。